学生座談会

※この座談会は、2014年1月に行われたもので、参加者の肩書、学年は当時のものです。

先端研とはどのようなところなのか? 先端学際工学専攻ではどのような教育や研究が行われているのか?先端学際工学専攻に籍を置く3人の方から入学希望者へ向けて、先端研への熱い思いから毎日の暮らしぶりまで、感じたままをお話しいただきました。

司会:神崎 亮平 教授 東京大学先端科学技術研究センター副所長

先端研を選んだのは

神崎: 先端研の副所長でカリキュラム委員長も担当している神崎です。研究分野は生命知能です。今日はファシリテーターとして、みなさんにいろいろなお話をお聞きしたいと思っています。よろしくお願いします。まずは自己紹介を。

近藤: 近藤彩乃と申します。東大の薬学部で修士課程まで修了した後に製薬会社に就職し、3年間社会人として働いたところで社会人学生として戻ってきました。今はゲノムサイエンス分野の博士課程1年です。

ケルスティン: ハリング・ケルスティン・ソフィーと申します。出身はドイツです。今はドクターコースの2年で、認知科学分野の渡邊研究室にいます。専門はヒューマンロボットインタラクションです。

谷口: 谷口洋平と申します。東大工学部で修士課程修了後、先端学際工学専攻に進学しました。数理創発システム分野の西成研究室で交通渋滞の解消のための研究をしています。複雑な交通流のさまざまな要素を数理モデルとして解析し、実験やシミュレーションをしたりします。博士課程の3年です。

神崎: ありがとうございます。ゲノムサイエンス、認知科学、そして渋滞解消につながる複雑系の数理と、ここにいる3名の話からだけでも非常に違う分野の研究が行われていることが分かりますが、これは先端学際工学専攻の一つの特徴です。先端学際工学専攻は先端研という研究所にある大学院という位置づけですが、みなさんは先端研、先端学際工学専攻をどうやって知り、なぜ今所属している研究室を選んだのでしょうか。

近藤: 東大在学中は先端研についてあまり詳しくは知りませんでしたが、会社に入ってゲノムにかかわる仕事をしていく中で、先端研の油谷先生や児玉先生に共同研究などでお世話になる機会が増え、研究所見学もさせていただくようになりました。最先端の機械がたくさんあって、私のいる製薬業界に関係する分野の社会人も集まって研究をしているということを知り、いいなぁと思いました。

神崎: ケルスティンさんはいかがですか。

ケルスティン: 大学院を選ぶとき、インターネットで調べてコンピューティングサイエンスの専門家を探していました。そのころ、いろいろな先生方と会議で会う機会があり、渡邊先生に研究のためのサポートをしてもらえそうだと感じたのです。先生のサポートはとても大切ですから。

神崎: ドイツにいるときは先端研とか東大はご存じでしたか。

ケルスティン: 東京大学は知っていましたが、先端研は知りませんでした。

神崎: 谷口さんはいかがですか。

谷口: 私は修士までは別の研究室で、渋滞に少し関係のある研究をしていました。同じ東大の西成研究室が渋滞の研究の最先端なので、博士課程ではそちらで研究をしようと西成先生に面談を申し込み、そのときに西成先生から言われて初めて先端学際工学専攻を知りました。

近藤 彩乃 さん 先端学際工学専攻1年・油谷研究室

毎日の暮らしぶり

神崎: 実際に進学されて、現在の一日の生活はどんな感じですか。

谷口: 私の場合は学生で、理論系の研究室なので、一日のスケジュールがきちんと決まっているわけではありません。朝は11時ぐらいに学校に来て、根をつめて研究を進めるときは23時過ぎまで学校にいたりしますし、早く帰るときもあります。結構まちまちです。

ケルスティン: 奨学金がなかったときは、たくさんバイトをして研究もして大変でしたが、奨学金がもらえるようになって楽になりました。私は朝が好きなので、朝6時に起きて、ちょっと運動をしてから来ます。

神崎: 社会人学生の生活というのはいかがですか。

近藤: 私の会社はここから1時間ぐらいのところにあるので、出勤して仕事をした後に学校に来たり、フレキシブルな感じです。

神崎: 週に何日ぐらい来られそうですか。

近藤: かなり来ていますよ。むしろ会社にいる方が少ないくらいです。

神崎: 仕事上、どうしても融通がきかないときもあると思いますが。

近藤: そうですね、授業と会社のミーティングがバッティングしてしまうこともあります。

神崎: どちらを取るのですか。

近藤: 基本的には会社に頭を下げて、単位が欲しいですって言って(笑)、来させてもらいます。出張が入ったりするとそういうわけにもいかないですけどね。そのときには研究室に事情をお話しすれば理解してくださるので助かっています。

神崎: そうですか。でも会社によって違うのでしょうね。

谷口: 私の周りの社会人ドクターの方の中には、学校に来る時間をやりくりするのが本当に大変そうな方もいらっしゃいます。

単位とカリキュラム

神崎: 単位の取得についてはいかがですか。

谷口: 3年間で博士論文に関する単位12単位を含めて20単位で、先導人材育成プログラムから必修が2単位ですから、あとはオムニバス講義や自分の研究に結びつくような、私の場合だと指導教員の西成先生の授業などを選択すると無理なく取得できますね。

神崎: 社会人にとっては大きな問題かと思いますがいかがですか。

近藤: どうしても会社に行かなければならないときもあるので、出席重視の授業は大変です。私の場合は会社が近いので、あまり問題になることはありませんが、中には静岡から来ている方もいて、朝一番の新幹線で来て授業を受けて帰られたり、有給休暇を取って来られたりして、苦労して単位を取られています。

神崎: カリキュラムでは、なるべく水曜日に授業を集中させ、水曜日に来れば大部分の単位が取れるようにしていますが、その効果はいかがですか。

近藤: 同じ日に授業があって、1日休みを取ればある程度単位がそろうのであれば予定を組みやすいので、社会人としてはありがたいです。

神崎: ケルスティンさんの場合は特に問題はなかったですか。

ケルスティン: 学生なので、出席については全然問題ありませんでした。

神崎: 講義は基本的に日本語のものが多いですよね。それはいかがでしたか。

ケルスティン: そちらの方が大変でした。英語が使われる講義もあるし、課題は英語で提出できましたが、スライドの図版や写真などをもとに推測し、調べて課題をこなしたこともあります。

近藤: それは大変ですね。

ケルスティン: 興味はあるけれど日本語だけなので取らなかったものもあります。基本的な日本語は大丈夫ですが、大学の講義のような高いレベルの日本語で詳しく説明する、というようなことはまだ難しいです。

神崎: 日本語のみだと留学生にはハードルになってしまいますね。これはわれわれの検討課題で、講義の英語化は急ピッチで進めているところです。

ハリング・ケルスティン・ソフィー さん 先端学際工学専攻2年・渡邉研究室

奨学金や履修の制度を活用

神崎: 学生生活では金銭面のサポートがとても重要になると思いますが、そのあたりはいかがですか。ケルスティンさんの奨学金はJSPS(日本学術振興会)のフェローシップですか。

ケルスティン: そうです。

神崎: サポートとして十分ですか。

ケルスティン: はい、大丈夫です。

谷口: 私の場合は研究室が企業と共同研究をしているので、リサーチアシスタント(研究プロジェクト等の遂行に、優れた大学院学生を参画させ、若手研究者としての研究遂行能力の育成等を図る制度)として給料を少しいただいていて、足りない分は奨学金を利用したり、貯蓄を切り崩したりしています。学生として一番きついところはお金です。全員がJSPSのフェローシップを取れるわけでもないので、何かサポートがあるといいですね。

神崎: 東大にはJSPSのフェローシップなどが取れなかった大学院生を支援する制度がありますが、ご存じですか。

谷口: 月5万円もらえるとか……。

神崎: そう、月5万円で6か月間、30万円です。授業料の半期分くらいはカバーしようという支援制度で、現状は申請すれば採択されるようです。社会人学生の場合、金銭面はいかがですか。

近藤: 会社によってまちまちだと思います。私はラッキーなことに2年間は会社から学費を出してもらえ、もう1年は半額の補助があります。そのときには残りの半額は自分で払います。

神崎: 3年分の学費で6年まで履修期間を延長できるという長期履修学生制度※がありますが、ご存じですか。

近藤: 私はかなり気にしています。社会人なので、3年でPhDを取るのが難しくなる可能性を危惧していたので、このような制度はいざというときにとても助かると感じました。

神崎: こういう制度は、特に社会人の方にとって非常にいいですよね。

谷口: 確かに社会人学生の方に、そういうサポートが先端研を選ぶ一つの理由になったということを聞きました。社会人以外でも適用されますか。

神崎: 社会人以外でも認められる場合もあるようです。ほかにもさまざまな制度があるので、上手に活用することは大事ですよね。遠慮なく事務の担当の方に聞いてみてください。

近藤: 選択肢があるだけで全然違いますよね。

谷口 洋平 さん 先端学際工学専攻3年・西成研究室

海外派遣の機会も提供

神崎: ところで先端研の一つの使命として社会人の再教育があります。イノベーションやそのマネジメントに長けており、学際性に富み、研究もきちんとできる人材を育てる。そのため先端学際工学専攻には一般コースのほかイノベータコースを設けていますが、みなさんは一般コースですね。あまり意識されませんでしたか。

ケルスティン: 意識しませんでした。

谷口: 私は修士からの進学でしたので、特に意識せず一般コースを選びました。カリキュラムが少し違いますね。

近藤: 一般コースだと先導人材育成プログラム(I)のプロポーザル(研究企画書)と(II)の先端科学技術英語(プレゼンテーション)のどちらかを選んで必修、イノベータコースだと両方が必修ですよね。

神崎: 先導人材育成プログラムはカリキュラムの柱の一つです。
イノベータコースでプロポーザルと先端科学技術英語の両方を必修としたのは、社会人を再教育し、イノベーションを起こして幅広い分野で活躍する人材を育てたいという趣旨からです。
みなさんはどちらを履修されていますか。

ケルスティン: 先端科学技術英語です。

谷口: 私もそうです。

神崎: プロポーザルの科目は学生にとってハードだし先生方も負担は大きいのですが、先端研にいるさまざまな分野の、自分の専門とは少し違うけれど自分の研究にとって重要な分野の教員から指導を受けることができます。異なる分野にも専門性を広げるということはとても大事ですよね。そうした分野の研究者から深く学んだり、学んだことから提案書を書き、そのプレゼンを行いますが、その指導をいただいているわけです。

ケルスティン: なるほど。

近藤: 私はプロポーザルを取っています、単位の取得はまだですけれど。自分の研究とは少し違う分野とどうやってコラボレーションするか、どう科研費を申請するか、そういうことを考えてプロポーザルを書くのはとても面白いな、と思って。自分の指導教員だけでなく異分野の教授にも鍛えてもらえる、なかなかない機会だと思います。

神崎: カリキュラムでは英語も重視していて、ケンブリッジ大学のクレアホールに学生を4週間派遣する制度がありますがご存じですか。滞在費や旅費などの費用は先端研でまかないます。2週間はサマーコースに出席し、あとの2週間は自由に研究できます(平成25年度実績)。帰ってきたらレポートを提出し、先端科学技術英語の時間にそのプレゼンテーションをすれば、先端科学技術英語の授業への出席は免除で単位が取れます。

近藤: すごく行きたいと思っていて上司に相談したのですが、4週間もあると簡単には許してもらえなくて。社会人じゃなかったら確実に行きたい、素敵なシステムですね。

神崎: 条件としては、TOEFLのiBTが100点以上というのがありますが、それぐらいの英語力は当然、必要でしょう。行きたいっていう社会人学生はたくさんいるのですが、なかなか会社が許してくれないみたいですね。

谷口: 倍率はどれくらいですか。

神崎: 現状では応募すれば行けます。

近藤: えーっ、本当にうらやましい。

幅広い分野から学ぶ

神崎: もう一つ、先端学際工学専攻で重要視しているのが学際性です。自分の専門のほかに、もう一つ二つ「とがった」ところがあってもいい、という考えからカリキュラムには先端学際工学専攻の5分野の最先端を深く学ぶ先端各論や各分野のトレンドや重要研究、世界の動向について、分かりやすく解説する「先端学際工学特別講義」を設けています。それについての意識とか感想をお聞きしたいのですが。

近藤: 会社にいると視野が狭くなる面があります。私は製薬会社でバイオロジーをベースとした研究を行っているのでバイオロジーの知識はすごくつきますが、それ以外の情報はあまり入ってきません。でも先端研では自分の研究について、違った角度から見ることができるようになります。例えば先端各論で、機械、デバイスの開発をされている先生の話を聞き、開発した薬をどういうふうに物理的に投与するかとか、どういうふうに標的部位に物理的に運ぶかというようなデバイスからもアプローチができるということに気がつきました。そこでその先生のところに行って意見交換し、本当に楽しかったです。

神崎: ケルスティンさんはどうですか、インターディシプリナリー(学際的)な領域を提供できるようカリキュラムを作っていますが、何か感じるところはありますか。

ケルスティン: ドイツの研究室ではコンピューティングサイエンスをやっていて、人間とロボットのインタラクションというアイディアはあまりありませんでした。でもここでは認知科学とか人工知能ロボットとか心理学とか全部ミックスされたような、学際的な研究ができるようになりました。

神崎: 谷口さんはいかがですか。

谷口: 今はどうやって渋滞を解消するかという研究なので、こんなふうに車が動けば、という方法論が研究の中心です。でもどうやってそういう車を作るかということも知っておく必要があると思いますし、授業では認知工学の最先端の話などを聞きました。関連分野について広く知っておくことで、より良い仕事ができると思っています。

チャンスと可能性を生かす場

神崎: 先端学際工学専攻に進学してみて印象はいかがですか。

近藤: お話しして改めて感じたのは、とても多様なところであるということです。多様な分野の最先端を行く方が集まっていて、学ぶ人もダイバースで、社会人経験のある方もいれば修士からストレートで上がってくる学生もいれば留学生もいる。また、社会人にとってすごいサポーティブだと思います。

神崎: そうですね。

近藤: チャンスや可能性はたくさんあるので、あとはそれをいかに活用できるかですね。ここであと1年、2年と過ごす間、そういうことを意識していきたいと思っています。

神崎: ケルスティンさんはいかがですか。

ケルスティン: すごくいい経験をしています。日本語の壁を感じることもありますが、指導教員の渡邊先生とか研究室の秘書の方とか、みんなで書類の翻訳や通訳をして手伝ってくれます。奨学金の申請書は2年間でどれくらい書いたかな、本当にたくさん。全部先生の印鑑とかレビューが必要でした。みんな本当に優しい。信じられないくらいのサポートで、本当に良かったです。それがなかったら大変でした。事務の人もサポーティブです。

神崎: 「おもてなし」ですね(笑)。谷口さんはいかがですか。

谷口: やはり非常に多様性があると感じます。将来どんな社会人になろうかと考えるときに、先端学際工学専攻ではさまざまな分野の最先端の講義や研究の話を聞いて考える機会があるので、進学先としていい選択肢だと思います。

神崎: 卒業後のキャリアについてはいかがですか。

近藤: 私は社会人ですので、今の会社で仕事を続けます。

ケルスティン: 私はPhDを取得したら、もう1年、大学でポスドクをやりたいです。自分の研究分野で企業のコンサルティングをしたり、自分で会社を興したり、ということも考えたりしています。

谷口: 私は企業への就職が決まっています。専門が交通流や渋滞でしたから、それに関連した研究をすることになると思います。

神崎: この多様な先端研を最大限に利用し、ここで学んだことを生かして大いに活躍してもらいたいと思います。今日はどうもありがとうございました。