東京大学

石北研究室

石北教授

タンパク質の真の姿を、理論計算で解き明かす

石北央研究室では、タンパク質の構造をもとに、その機能を理論計算で読み解く研究に取り組んでいる。
目的は、生命におけるタンパク質の役割を本質的に理解すること。
DNAが生命の設計図なら、タンパク質は生体内で機能を担う実動部隊だ。
そのメカニズムは複雑で、タンパク質の化学的な性質を測定する「実験」だけでは解明することはできない。
理論計算でしか見えてこないタンパク質の姿があるのだ。

複雑な分子構造から機能を見る――理論計算だからできること

生体内でさまざまな働きをするタンパク質は、複雑な立体構造を持っています。それが精密機械の部品のように組み合わさり、生体機能を担っています。
タンパク質の分子構造は、X線構造解析で明らかにすることができますが、構造を見ているだけでは機能は分かりません。そこで私たちの研究室では、実験から得られた分子構造のデータをもとに、コンピュータを使った理論計算によって、タンパク質の機能を明らかにする研究に取り組んでいます。
研究室には試薬やビーカーはありませんが、実験では見えないタンパク質の動きや電子の流れも、理論計算を行えば解き明かすことができます。研究室で最も力を入れているのは、光合成反応を担う膜タンパク質の機能の研究です。ほかにも、酵素活性や受容体の働き、新しい材料のための分子設計など、多様な研究テーマを扱っています。

理論というツールを手に入れて広がった世界

大学に入るときは物理をやりたいと思っていましたが、駒場の教養学部の2年間で生物にも興味を持ちました。生物と物理と化学の境界を研究したいと考え、進路振り分けで工学部化学生命工学科に進みました。
修士課程までは実験に没頭していましたが、博士課程はドイツに留学し理論化学を学びました。修士で就職するつもりでしたが、内定をもらって学生時代を振り返ったら、留学と博士号取得は今しかできないことじゃないかという気がしてきました。好きなわりには実験であまり成果が出なかったので、やり残した感が強かったのかもしれません。
理論化学というツールを手に入れたことで、世界が広がりました。計算は正直です。それまで当たり前だと思っていたことが、理論計算によって覆ることもよくあります。その瞬間こそが面白く、実験では解き明かせない生命の謎に迫っていきたいと思っています。

理論と実験、異分野の知が交わる場所

理論計算の研究室に来るのは数学やコンピュータが得意な人、というイメージがあるかもしれません。ところがこの研究室には、私を含め実験を経験していた人も多くいます。バックグラウンドも生物、化学、物理など、さまざまです。
計算はあくまでも、「知りたいことを知る」ための手段でしかありません。また、理論化学の計算には実験で得られた分子構造データも必要です。そのデータのどこに注目してどのように計算するか――。これには実験の経験や生物・化学の知識が必要になってきます。研究室では、光合成タンパク質のほかにもさまざまなタンパク質を研究対象にしています。学生の研究テーマも各自の興味にもとづいて決めています。
研究の根本的なモチベーションは、タンパク質を通じて生命の普遍原理に迫りたいという基礎科学にあります。ただ、光合成の仕組みの解明は人工光合成にもつながりますし、創薬や素材開発など、応用を視野に入れた研究にも取り組んでいます。研究室の卒業生は、化学メーカーやエネルギー企業、省庁などさまざまな道に進んでいます。
私が所属している先端研には、多様な分野の研究者が集まっています。理工系だけでなく社会科学系の研究室もありますし、基礎研究から工学応用までアプローチもさまざまです。分野が違う研究者との交流は、新たな視点に気づかされることも多く刺激的です。異分野と交わる環境で、タンパク質を題材に、理論計算という武器を使って生命の謎を一緒に解き明かしていきましょう。

石北研究室の様子
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