東京大学
  1. ホーム
  2. 専攻について
  3. 在学生・修了生の声
  4. 修了生の声
  5. エスパルドン・ベーニス・メー・ユヘコ さん(岡田研究室)

エスパルドン・ベーニス・メー・ユヘコ さん(岡田研究室)

  • ユヘコ
  • 2020年3月に、東京大学大学院工学系研究科の先端学際工学専攻(AIS)を修了しました。博士後期課程では、超高効率の太陽電池の研究に従事しました。それとは別のプロジェクトになりますが、紫外発光ダイオード(UV-LED)で水中の微生物を不活化し、水処理をする研究も行いました。現在は、同研究科で博士研究員(日本学術振興会特別研究員)として、太陽電池とUV-LEDを利用した水処理の研究を行っています。

    フィリピンの電力と水の問題を解決したい

    2011年にフィリピンのサント・トーマス大学を卒業。「母国で大学の教員になりたい」と、大学院への進学を検討していた頃、幸運にも、味の素奨学会から奨学金を受給することになりました。受給条件は、東京大学に入学すること。試験を経て、工学系研究科の博士前期課程で研究を始めました。子どもの頃から日本のアニメが大好きで、「いつかは日本を訪れたい」という夢が叶った瞬間でした。研究テーマである太陽電池については、日本に来る前から興味を持っていました。母国で相当数の人々が電気のない生活を余儀なくされており、この技術で大きな社会貢献ができると思ったからです。同分野の第一人者のひとり、岡田至崇教授の指導の下で博士前期課程を修了し、AISの博士後期課程に進みました。岡田研究室では、太陽電池の「光を吸収する多層構造」に注目し、太陽電池の発電分布について研究しました。

AISのカリキュラムの一環として、「都市工学専攻の小熊久美子准教授と一緒に研究しないか」と、提案してくれたのは岡田教授です。小熊准教授は、アジア各国で水処理の研究をしており、異分野の教員と研究する「先導人材育成プログラム」の趣旨にかなっていました。カリキュラムの1科目として研究を行い、太陽電池を利用したUV-LED水処理システムの研究プロジェクトが始動したのです。フィリピンは海で囲まれていますが、皮肉なことに飲料水が不足しています。「この課題も解決したい」という思いが、研究を進める上での推進力となりました。この科目は1年で修了しましたが、小熊准教授はその後もこの研究を継続することを後押してくれ、フィリピンでのフィールドワークの資金もサポートしてくれました。

東京大学で科学に魅了される

技術的な知識の不足に課題があると感じていたので、フィリピンより技術が発達した日本に来るということは、私にとって大きな挑戦でした。でも今では、先輩や新人、どんな研究者とでも協働できる自信がついてきました。私の専門分野の知識を共有したいという研究者もおりとても光栄に思っています。

実は、科学に魅了されたのは博士課程前期やA I Sで研究を重ねてからです。科学関連の仕事に就く女性が多くないと指摘されていますが、「科学技術は性別にかかわらない」と伝えたい。女性であれ誰であれ、この分野で喜びを見出せるし成功できることを実感しています。

AISのほとんどの科目は英語で行われるので、留学生も言語の壁を心配する必要はありません。私の日本語の習熟度はまだ大学レベルに達していませんが、同僚とのコミュニケーションに支障はありません。岡田研究室の雰囲気は国際的で、様々な機関の研究者とも交流します。日本だけではなく、海外の研究者とも自身の分野について議論をすることができます。国際会議で研究成果を発表する機会を与えられたのも岡田教授の下で研究ができたおかげだと感謝しています。

現在は、太陽電池を超高効率化するための材料を研究しています。太陽電池内で「光のリサイクル」を可能にする様々な材料、専門用語で言えば、「多重接合太陽電池のルミネッセンスカップリング」。従来の太陽電池の持つ課題を克服し、電池がより効率的に太陽光を捉えられるようにするのが目標です。

AIS在学中の2020年に、東京大学駒場リサーチキャンパスの有望な研究者向けの「UTEC若手海外自由展開・研鑽支援プログラム」に私のプロジェクトが採択され、フィリピンのサン・アグスティン大学に派遣されました。太陽電池を利用したUV-LED水処理システムの社会実装の可能性を探るフィールドワークをフィリピンの離島で行いましたが、高温・高湿度の過酷な作業環境に耐えなければなりませんでした。それに加え、新型コロナ感染症の拡大。それにもかかわらず、論文発表には十分な有益データを蓄積することができ、一安心しました。研究では、このシステムにより安全な飲料水や電力が不足する場所で利用が可能であることを示すことができました。小熊准教授との出会いは、母国の大きな課題を目の当たりにできた貴重な機会となりました。

AISは留学生にとって大きな選択肢

現在の博士研究員としての任期は2022年3月に終了しますが、今後も太陽電池材料の研究を続けたいと希望しています。最近出産し、ワーキングマザーです。出産後にできる限り早く研究に戻るため、娘を保育園に入れましたが、成果を出すには長時間の研究が必要なので仕方ありませんね。このような状況ですが、時間が許せば、化学系の学生向けの講義を持ちたいと考えています。教えることへの情熱があり、いつかはフィリピンで大学教授になりたいという希望を持っています。

A I Sに留学を考えている方にアドバイスをするとしたら、「ぜひ」と伝えたいです。A I Sの環境はインクルーシブで、社会人も日本人や外国人も関係なく受け入れています。一般の人に自身の研究内容を分かり易く説明する「サイエンスコミュニケーション」を課題と感じている科学者は多いのではないでしょうか。私もその例外ではありませんでしたが、AIS、岡田研究室での科目履修や発表を通じて、研究を効果的に伝え、説明する手法を学びました。もし、科学をより分かりやすく広く伝えたいと考えているなら、A I Sの環境はお勧めです。

ページの先頭へ戻る