東京大学

2022年度 専攻長あいさつ

大学院座談会

30年間『先端学際』であり続ける理由

東京大学大学院工学系研究科 先端学際工学専攻 2022年度専攻長

矢入 健久


先端学際工学専攻が開設されて30 周年という節目の年を専攻長として迎えることを、大変恐縮しつつ光栄に思います。私自身は同じ工学系研究科の航空宇宙工学専攻を修了していますが、大学院進学時に当時の知能工学分野、堀浩一先生の研究室に配属され、先端学際工学専攻の博士課程学生、特に社会人博士課程の人生経験とモチベーションにあふれる先輩方に囲まれて多くのことを学ばせてもらったので、当専攻のことも勝手に出身専攻だと思っております。今回、専攻長という立場で当専攻の30 年間という歴史を振り返りますと、専攻の創設と発展に尽力されてきた先端研の先生方、そして、当専攻で学問と研究に没頭し歴史を刻んできた卒業生の方々に対して感謝と尊敬の念を禁じえません。

私が何よりも強調したいのは、当専攻が30 年間にわたって看板に偽り無く「先端」と「学際」を貫き続け、先端研の教育機関として役割を果たし続けていることです。これは決して容易なことではありません。どのような組織も、大きくなり長く続けば、保守的になり、先端は鈍り、同質な構成に近づくものです。これは熱力学第二法則を持ち出すまでもなく、我々人類が幾度となく目の当たりにしてきたことです。しかし、当専攻の場合、教員の専門性と学生の情熱が熱源となって「先端」をさらに尖らせ、多様性と好奇心が「学際」性を際立たせてきました。これは、全ての専攻構成員が好きな方向に全力で進みつつ、全体としてはバランスが取れて巨大なモーメントを生み出して専攻の動力源となり、さらには、周囲から新たな資源を絶えず取り込んで新陳代謝を繰り返しながら動き続けているからだと考えます。つまり、先端学際工学専攻は自律的な動的システムだと言えます。

このような自律的動的システムの特徴として、環境の変化や外乱に対して頑強であるということが挙げられます。最近もそれを再認識させられる出来事がありました。実はコロナ禍が始まった2020年度も私は専攻長をつとめておりました。新学期の全講義がオンライン実施になることがトップダウンで決まり、当時の常務委員の先生や教育研究支援担当と相談しながら専攻におけるオンライン講義の実施方法を策定していた私は、対面講義の機会を奪われた教員と学生からお叱りや苦情を受けるものと身構えていました。しかし、ふたを開けてみれば全くそういうことは起こらず、教員・学生の双方が新たな講義スタイルを前向きに受け入れ、むしろそのメリットを最大限に享受しているように見受けられました。このポジティブな順応性こそが当専攻の大きな特長であると思います。

専攻30 周年記念ということで、専攻の教員と学生に焦点を当てて書かせて頂き、勢い余って当専攻のことを「自律システム」と少し誇張して表現してしまいました。実際には母体である先端研があってのこその先端学際工学専攻ですが、先端研の研究と教育という両輪の片側を担い30年間で約500名もの課程博士を世に送り出してきた当専攻を誇りに思うあまりそのように書いてしまったことをご容赦ください。最後に、先端学際工学専攻に関わってこられた全ての方々に重ねて御礼申し上げます。

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