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学位取得者より(2000年代以降)


浅川 智恵子

浅川 智恵子

  • IBM フェロー
  • 日本科学未来館 館長

学位取得:2004年 3月
論文題目:Combined Information Presentation For The Blind Using Speech And Touch(音声と触覚を活用した視覚障害者のための情報提示インタフェース)

キャリアを開くための挑戦

私は2001年当時、視覚障碍を持つ女性研究者として仕事を続けていました。しかし情報収集など自分の限界も感じていて、博士号に挑戦して仕事の幅を広げたいと思ったのが先端研の門を叩いたきっかけでした。私が所属していた伊福部研究室があったのはとても古い建物でした。仕事の後や週末の静かな時間に数名のラボメンバー、それぞれが歴史のある部屋で研究に打ち込んでいた日々を今でも懐かしく思いだします。ただ、ワーキングマザーとして学位取得に向けた研究と仕事、家庭を両立することはなかなかに大変でした。その後、伊福部先生のご指導のおかげで2004年3月に学位を取得できました。博士号授与式の後のパーティーの席でどうやって研究の時間を作ってきたのか質問されたとき、「毎日夜9時以降、週末はすべて研究に費やせば簡単です。」と答えたのはもちろん冗談ですが、少しは真実も含まれています。

あれから18年が過ぎました。振り返ってみるとあの時学位取得に向けて研究できたことが大きな自信につながり、その後のキャリアを開くきっかけになりました。例えば、2000年代の情報アクセシビリティ研究から2010年代の移動アクセシビリティ研究へと研究領域の幅を大きく広げる必要があった時、世界中の学際的な関連研究を網羅的に調査した上で、研究活動を続けて成果を出せたのは先端研での経験の賜物だと思います。キャリアとしても、2009年にIBMフェローに任命され、2014年の秋からは米国カーネギーメロン大学において客員教授として世界中の仲間とともに研究をする機会を得ることができました。2021年からは日本科学未来館の館長を兼任し科学技術と社会をつなぐ役割を担っています。

このようなキャリアを開くきっかけを私は先端研で得ることができました。

若い学生の皆さんもまた社会ですでに活躍されている方々も、何かを発見したい、研究したいと思う時があったら是非先端研の門をたたいてみてください。きっと何かがみつかるはずです。


Efrain Tamayo

Efrain Tamayo

  • Energy Business Administration Division, Hitachi,Ltd.
    (株式会社日立製作所 エネルギー業務統括本部)

学位取得:2014年 3月
論文題目:Maskless plasma etching antireflection nanostructures on optical elements in concentrator photovoltaic systems
(集光型太陽発電システムにおけるマスクレス・プラズマエッチング・ナノ構造を用いた低反射光学素子)

Q. What was your inspiration to become a researcher?

To understand more deeply the creation process of technical knowledge and its connection with innovation to address key challenges in society.

Q. 研究者になろうと思った動機は何でしたか?

技術的知識の創造プロセスと、そのイノベーションとの関係をより深く理解し、社会の主要問題に取り組むためです。

Q. Can you please describe the research you did when you were a student at AIS in one or two sentences to a middle-school student?

I developed a process and studied its effect on reducing the reflection of light at the interfaces of concentrator photovoltaic systems to increase the system efficiency.

Q. 中学生に向けて、AIS(先端学際工学専攻)在籍時の研究について1~2文で説明していただけますか?

集光型太陽光発電システムの効率性を向上させるために、そのシステムの接触面における光の反射を低減するプロセスを開発し、その効果について研究しました。

Q. Why did you choose AIS?

AIS has world-leading education quality and laboratories as well as a unique environment for collaboration with industry and among university laboratories. Additionally, it was really helpful to communicate and study in English while improving Japanese proficiency.

Q. AISを選んだ理由を教えてください。

AISは世界トップレベルの教育品質と研究室を誇ると同時に、産業や特に大学の研究室と連携するための独自の環境を備えています。さらに、日本語を上達させながら、英語でコミュニケーションや研究ができるのは非常に有益でした。

Q. What are your memories about AIS?

My time at AIS is very close to my heart. I often remember and get inspired by the statue pointing forwards close to RCAST Bldg.13 that I think represent what we aim to do. I remember it as a very dynamic time with an excellent collaborative atmosphere so that I could be moving across laboratories in AIS, other campuses, and abroad to conduct experiments and discuss with other students, researchers, and professors.

Q. AISに関する思い出があれば教えてください。

AISで過ごした時間は私にとって本当に貴重な思い出です。先端研13号館の近くにある、前方に向かって指をさしている彫像を思い出すと、元気づけられます。私たちが目指すものを体現していると思うからです。AISでは実に活動的な時間を過ごすことができました。非常に素晴らしい協力体制が整っていたため、AIS内の研究室、別のキャンパス、さらには海外まで行って実験を行ったり、他の学生、研究者、教授とディスカッションを交わしたりすることができました。

Q. What are your dreams for the future?

I hope that we will be able to create governance mechanisms in society that empower individuals to have more influence in the direction of society defining priorities that support sustainability, reduce rivalries, and make more efficient use of resources. In that context, I believe, more research will be possible to address key challenges in society and to explore further frontiers.

Q. 将来の夢は何ですか?

社会におけるガバナンスメカニズムを構築することで、持続可能性のサポート、競争の低減、資源の有効活用という優先事項を定義する社会に向けて、個人がより大きな影響力を持つことができればよいと考えています。そのような環境では、社会における主な課題に取り組み、未知の研究分野を追求するためのより多くの研究が可能になると考えています。


若林 悠

若林 悠

  • 大東文化大学法学部 講師

学位取得:2018年 3月
論文題目:行政組織の「専門性」と「評判」の構築 ―気象行政における「エキスパート・ジャッジメント」と「機械的客観性」の制度化―

Q. 在学時の研究内容についておしえてください。

在学時は、日本の行政組織である気象庁の歴史研究をしていました。明治時代から平成時代までの天気予報を対象にして、気象庁と社会との関係がどのように変わっていったのかを、様々な資料を用いながら明らかにすることをしていました。特にオーラル・ヒストリーのプロジェクトに関わっていた経験を活かして、気象庁の関係者に聞き取りを行い、文字資料とクロスチェックしながら歴史的な変遷を研究していきました。

Q. なぜこの専攻を選ばれましたか。実際に入学されて感じた魅力は何ですか。

最大の理由は、修士時代の指導教員であった牧原出先生の下で引き続き研究をしたかったからです。御厨貴先生からご指導いただけたことも、非常に得難い機会でした。研究環境の点では、落ち着いたキャンパスでじっくりと研究に取り組めることはとても魅力的でした。また、文理の枠組みにとらわれない様々な知的な交流の場は、思いもよらない気づきを得ることもあり、刺激を受けることは多かったです。

Q. 在学時の研究や経験を通して得たものは何ですか。また、現在の生活において、どういかされていますか。

在学時の研究や経験から得たものは、聞き取り調査を行う面白さだと思います。準備から実際の聞き取りの場での相手とのやり取りに至るまで、難しさを感じたり大変なところもありますが、その人しか知り得ない情報や独自の解釈を聞いたときの喜びは、文字資料を読み解く作業とは異なる醍醐味です。また、聞き取り調査を実際に経験してみると、過去の聞き取りの資料を読むときにも、読み方が変わるといいますか、より深く読めるような感覚をもつことがあります。こうした経験は、現在の研究活動においても非常に役立っています。

Q. 進学を考えている方にメッセージをお願いします。

それぞれの研究室の個性や自身の研究スタイルにもよりますが、先端科学技術研究センターの環境は、じっくりと研究に向き合いたい人にとって本当に良い場所です。また私が文系の人間だったこともあるかもしれませんが、理系の分野とも関わる学際的な研究テーマを考えているのであれば、先端的な研究へと導く多種多様な可能性が広がっている場所だと思います。


中村 徹哉

  • 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 主任研究開発員

学位取得:2020年 3月
論文題目:内部発光効率解析に基づく宇宙用III-V族太陽電池の高性能化に関する研究

Q. 在学時の研究内容についておしえてください。

人工衛星や宇宙探査機に必要不可欠な宇宙用太陽電池を対象とした研究を実施しました。宇宙用太陽電池の性能を表すエネルギー変換効率は、製造時に発生する自然欠陥の他、高エネルギー宇宙放射線によって発生する放射線欠陥によって低下します。宇宙で使用する限り、放射線欠陥密度を減らすことは難しいことから、私は、これらの欠陥があっても高い変換効率を実現できる太陽電池構造について研究を行いました。

Q. なぜこの専攻を選ばれましたか。実際に入学されて感じた魅力は何ですか。

先端学際工学専攻を選びました。短期間で集中的に学べる点が、仕事と学業を両立するうえで大変助かりました。また、学際的な講義も専門性を広げるような刺激的なもので、大変有意義でした。

Q. 在学時の研究や経験を通して得たものは何ですか。また、現在の生活において、どういかされていますか。

未知にチャレンジすること、考え抜くこと、そして成果を形にしていくことが、在学中に学んだ大事なことです。これらは、自身のキャリアパスを考えるうえでいかされていると感じています。

Q. 進学を考えている方にメッセージをお願いします。

社会人で進学することは、さまざまなハードルがあり、悩んでいる方も多いのではないかと思います。先端学際工学専攻はそんな社会人が抱えるハードルを少しだけかもしれませんが下げてくれ、皆さんの進学を後押ししてくれるはずです。


堀江 新

堀江 新

  • 東京大学先端科学技術研究センター 特任助教

学位取得:2022年 3月
論文題目:体表変形を通じた身体表象転移に関する研究

Q. 在学時の研究内容についておしえてください。

モノや他者などの対象の運動を触覚で理解するというコンセプトを提案し、それを可能にする技術の設計指針をプロトタイピングと心理物理実験を通じて明らかにしました。生理学や現象学の考え方を工学に適用することで、皮膚感覚を提示するインターフェイスの適切な設計について考えました。さらに、設計したインターフェイスを建機メーカーとの共同研究に活用し、社会実装に向けた取り組みも行いました。

Q. なぜこの専攻を選ばれましたか。実際に入学されて感じた魅力は何ですか。

先端学際工学専攻を選択したのは、博士前期課程までに身に付けた専門性を軸に、異なる学術領域との架け橋になるような研究を行いたいと考えたからです。入学して感じたのは、異分野の研究室の距離の近さでした。先導人材育成プログラム(I)-プロポーザル-という授業では、異なる研究室の先生と研究テーマを考えるきっかけになり、実際のプロジェクトにまで繋がりました。

Q. 在学時の研究や経験を通して得たものは何ですか。また、現在の生活において、どういかされていますか。

先端学際工学専攻では多くのコラボレーションの機会に恵まれたことで、現在の研究生活においても、異なる分野の研究者との共同での研究や企業との産学連携で成果を生み出すことに対するハードルが大幅に下がった印象があります。また、研究を社会に展開することへの意識が形成され、論文の形に限定しない研究のアウトリーチも目指すようになりました。結果的に研究活動に対する視座が高まったことで、自分の研究生活の可能性が大きく開けたと感じています。

Q. 進学を考えている方にメッセージをお願いします。

先端学際工学専攻は、博士後期課程限定かつ様々な分野のプロフェッショナルが集まる極めて特殊な環境です。ぜひ自分の専門性を生かして学際的な研究にチャレンジしたい方は進学を検討してみてください。これまでの研究観がガラッと変化するような経験を得ることができると思います。

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