東京大学

中村・宇佐見研究室

中村教授

目的のために多彩な研究者が集結

量子力学のもっとも不思議な性質の一つに、「重ね合わせ状態」というものがあります。
例えば、量子力学の世界では、「コインの表と裏が同時に存在する」という状態があり得ます。
この重ね合わせ状態は通常ミクロな世界でのみ実現し、日常では目にすることができません。
量子力学というのはこういう不思議なところが一番面白い。
その不思議な量子の性質をきちんと操ることに魅力を感じています。
量子力学の不思議を解き明かして、世界の見方を根本から変えることができたら面白いと思っています。

21世紀を量子力学の応用の世紀へ

中村泰信教授は、情報処理や通信技術を劇的に進化させる可能性を秘めた量子コンピューターや量子通信デバイスの実現に向け、世界をリードする研究を進めている。量子力学とは、1900年代の初めに生まれ、20世紀の間に発展した理論。量子力学の理論を応用し、量子コンピューターや量子通信デバイスが実現すれば、情報処理や通信技術が劇的に進化する可能性がある。「21世紀が量子力学の応用の世紀と呼ばれるようになることを目指して、研究を進めています」と中村教授は語る。

1999年、中村教授は世界で初めて、超伝導回路の中で量子を自在に操って重ね合わせ状態を作ることに成功し、その成果をまとめた論文が雑誌「Nature」の表紙を飾った。現在は、超伝導で確立した量子を自在に操る技術を、光や電子などの他の量子とも組み合わせて応用するという「ハイブリッド量子系」の構築を目指して研究を進めている。例えば、超伝導量子は制御しやすいが、遠くに速く飛ばす通信技術には光の方がいい…など、それぞれの量子に一長一短がある。「ハイブリッドカーのように、量子のいいところどりをした画期的な量子情報処理・通信ツールを作りたい」と中村教授は構想している。

企業で20年間の研究生活

中村教授が大学院修士課程を過ごした1990年代初めの日本は、半導体産業で世界のトップを走っていた。電気回路を作る技術が進歩し、微小なトランジスタの素子が作れるようになってきたのがそのころだ。中村教授は、修士課程のときに、「1μm以下の微小な電子デバイスを作ると新しい物理が見えてくる」と書かれた論文を読んで、ナノの領域の物理世界に興味を持った。修士修了後は、NECに入社。当時は大学よりも企業の方が研究環境に恵まれていて、「面白いと思った研究に力を注ぎ込んで、好きにやらせてもらえた」と振り返る。

「Nature」の表紙を飾ったときは、「純粋に物理的な興味でやってきていたが、それが注目される論文として発表できてうれしかった。先人が築き上げた量子力学の歴史に、一つ上積みすることができ、ニュートンの言葉を借りると、“巨人の肩の上に立つ”というような思いだった」と語る。

幅を広げるために先端研へ

中村・宇佐見研究室は2012年に発足した、まだ新しい研究室だ。20年間務めた企業を退職し、先端研に来ることは中村教授にとって大きな転換だった。「それまでは超伝導回路を用いた研究を行っていましたが、量子力学に関する研究の幅を広げて新しいことを試みてみたいと考えました。研究機関では、継続的に新しい学生を育てるということがなく、巣立っていく人がいないので分野の幅が広がりにくいのです。若い人と一緒にやるのは楽しいし、学生が入ったら活気が出てくる。新しいことをやりたいという気持ちや、チャレンジ精神がある人にぜひ研究室に入ってきてほしいですね」と語る。

現在、中村・宇佐見研究室には超伝導や光、スピン、ナノメカニクスなど、さまざまな分野を専門とする研究者が集まっている。「一つのテーマを深く掘り下げるためには、いろいろな面から見ないと息が詰まってしまう。ほかの分野のテーマでも、見方によっては自分のテーマのヒントになることがある。研究室のメンバーはバックグラウンドが異なるので“言語”が違うけれど、そうやっていろいろな分野の人が集まることで、新しいアイデアが出ればいいなと思っています」と語った。

ページの先頭へ戻る