大学院案内
大学院座談会

ここにしかない、自由と学びとイノベーション

先端研の大学院・先端学際工学専攻 博士課程

所属も、年代も、国籍の壁も超えて、自由に学び、異分野とつながり、研究に没頭できる場所。
先端研のカルチャーをそのまま受け継いだ大学院博士課程「先端学際工学専攻」には、広く知られていないメリットがいくつもあります。
なぜ、先端学際工学専攻を選んだのか。何を得られたのか。在学生と修了生の声をお届けします。

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西山浩平

西山 浩平 さん

(2017年修了生 事業家/中邑研究室 特任講師)

東京大学教養学部卒業後、マッキンゼーアンドカンパニーを経て、ELEPHANT DESIGN HOLDINGS株式会社、株式会社CUUSOO SYSTEMを創業。2014年先端学際工学専攻入学(馬場研究室)、2017年修了。

星山孝子

星山 孝子 さん

(先端学際工学専攻長期履修生4年 西成研究室)

経営コンサルタント。神奈川工科大学卒業後、英国UCLへ留学し化学工学を学ぶ。社会人として青山学院大学大学院(ABS)で学びMBAを修了。2016年放送大学大学院修了後、同年先端学際工学専攻入学。

張超

張 超 さん

(先端学際工学専攻3年 山下・セット研究室)

東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、独立行政法人日本学術振興会特別研究員、シンガポール南洋理工大学にて博士研究員。その後、日系メーカーにて計測器の開発に携わり、社会人として2017年に先端学際工学専攻入学。

照月大悟

照月 大悟 さん

(2018年修了生 神崎研究室 特任助教)

慶應義塾大学修士課程在学時にパデュー大学へ交換留学する中で、神崎研究室の「昆虫嗅覚受容体を用いた匂いバイオセンサ」に出会う。研究領域を変えて2015年先端学際工学専攻入学(神崎研究室)、2018年修了。2018年11月より現職。

中村 泰信 常務委員

ファシリテーター

中村 泰信 常務委員

(量子情報物理工学分野 教授)

東京大学工学部卒業後、日本電気株式会社基礎研究所研究員、デルフト工科大学客員研究員、日本電気株式会社基礎・環境研究所主席研究員等を経て2012年4月より現職。1999年、世界初の量子ビット素子を実現。

元橋 一之 専攻長

ファシリテーター

元橋 一之 専攻長

(科学技術論・科学技術政策分野 教授)

東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、通商産業省(現・経済産業省)入省。経済協力開発機構エコノミスト等を経て、2019年2月より現職。2019年1月の世界知的所有権機関報告書ではAI分野のリーダーに名を連ねる。

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学生のバックグラウンドは千差万別

中村
先端研にある大学院「先端学際工学専攻博士課程」は、あまり知られていないように感じます。今日はみなさんと、実際の学びや環境についてお話しできればと思っています。
元橋
まずは、何が決め手で先端学際工学専攻を選んだのでしょう?在籍中の星山さんと張さんからお願いします。
星山
ビジネスを学んでいた時代に、偶然、西成教授の渋滞学と出会いました。経営コンサルタントとして働く中で、渋滞学で事象を数理化することを知り、ものすごいヒントを得ました。仕事の奥にも普遍的な本質があり、それを掴むのは最終的には研究だと思いました。自分の領域で独自のものを掴み、応用すれば、お客様にも普遍的に喜んでいただけるような提案ができるのではないかというのがきっかけです。
私は、学位を取得しておきたかったというのが大きな理由です。日本では博士の学位を取ると研究職になるイメージがありますが、海外では起業する人もいれば、金融機関に入る人もいる。博士の学位はグローバルに活躍するためのパスポートです。また、山下教授とセット准教授とは以前から交流があり、現在研究している三次元計測、レーザースキャナーへの関心もあり、入学しました。
中村
OBの照月さん、西山さんはいかがですか?
照月
私は、昆虫の嗅覚受容体を利用した匂いセンサをテーマにして博士の学位を取得しましたが、元々は宇宙構造材料や再突入環境模擬試験といった今とは全く違う分野の研究をしていました。修士でパデュー大学に交換留学した際、鳥の羽ばたきを模倣したロボットで著名な研究者に出会い、生物模倣に興味を持ちました。今後の研究の方向性に悩んでいた時期でもあり、生物の模倣ではなく生物を直接使う研究はどうかと調べると、日本語で最初に出てくるのが神崎研究室だったんです。ラボを見学させてもらうと、大規模だしメンバーも多様だし、神崎教授もいい方で、博士を取るにはすごくいい環境だと感じて受験しました。
西山
私は、オンライン技術の特許を取得して社会実装をしました。その事業を2014年に売却した際、幸運なことに事業譲渡先のLEGO社からデータの使用許諾を得られたため、関わった事業を研究対象にしようと考えました。関連分野の理論的研究が進んでいたMITの教授から先端研の馬場教授(馬場靖憲東大名誉教授)をご紹介いただき、協力研究員を経て博士課程へ入学しました。私には、オンラインプラットフォームのメカニズム解明への強い欲求がありました。事業では、まず結果が求められます。背景で起こっていることを解明したくても、余裕も時間もありません。それでも事業の傍ら研究者と共著論文を発表し、共同研究を進めていました。その活動が認められ、修士課程を経ずに特別に入学を認めていただきました。
座談会1
ファシリテーターのキャラクターなのか、終始なごやかな雰囲気

自由でオープン トップレベルが集う「場」の力

中村
入学して、先端学際工学専攻や先端研の環境をどう感じていますか?
さまざまな分野が共存しているからか、非常にオープンな雰囲気ですよね。伝統に縛られず自由にやらせてもらえます。特にアウトリーチ活動では、東大IPC起業支援プログラムやシリコンバレーで開催されたSPIEスタートアップチャレンジ、今年の3月には東大産学協創推進本部主催プロジェクト「Todai To Texas(TTT)」で東大の代表チームに選ばれ、South by Southwest(SXSW)に出展しました。選ばれた7 チームのうち、稲見・檜山研と私たちの2チームが先端研の研究室なんですよ。私自身もいろいろなスタートアップ関連のイベントに登壇させてもらっています。
星山
同年代や外国人の方など、友だちがたくさんできました。情報交換したり学習環境のアドバイスをいただいたり、助け合っています。
西山
私がいた研究室は小規模で、一人で研究を進めることが多い毎日でした。しかし馬場教授が「その分野ならこの人に聞くといい」と定期的にアドバイスをくださったので、異分野の研究室を訪問し、新しい知見を借りてくることができました。現在所属する中邑研究室との縁も、そのアドバイスがきっかけです。私の研究対象は一般的には経営領域ですが、工学の視座からメカニズムを解明することがモチベーションとなり ました。経営分野と工学分野では考え方が異なるため、整合性を保つ苦労もありましたが、異分野の研究者との出会いは、同じ対象を違う視点から理解する上で、すごく役に立ちました。私自身は、研究者の前に事業家であると思っています。企業経営を通じて先端技術の社会実装をすることで、価値を生み出します。そんな私が研究を続けているのは、扱う対象が先端技術であるだけに、研究によってより深く理解が進み、応用先が拡がると信じているからです。技術理解と実践結果のフィードバック のサイクルを速くすると、研究成果が社会により多く循環すると思うのです。
座談会2
事業家としての思いを熱く語る西山さん
元橋
先端研には本当に多様な研究者が集まっているので、社会実装志向があると可能性が広がりますよね。
照月
先端研がすごいのは、理系や文系、お互いに全く違う分野が集まった組織でありながら、それぞれの専門分野では『Nature』や『Science』などインパクトファクターの高いジャーナルに論文が掲載され、なおかつさまざまな活動を一緒に行なっていることです。日本、いや世界でも珍しいんじゃないでしょうか。僕は比較的アカデミア志向なので論文投稿をしますが、神崎教授のご意向もあり企業との共同研究もたくさんしていて、かなり多くの特許を申請しています。その場合もトップジャーナルを狙います。アカデミアとしても、社会実装としての特許取得や起業などの面でもトップレベルというのは、学部から修士に進み、博士を考える人にとってもすごく魅力的だし、希少な場所だよと言いたい。先端学際工学専攻の約半分は社会人ですが、ストレートに進む学生にとっても、すごく価値のある場所なんです。
元橋
私はクリエイティビティのある論文がどのように生まれるかという研究もしています。ゼロからはなかなか生まれませんが、面白い組み合わせができるとインパクトの高い論文になることは、他の研究でもわかっています。それぞれの分野で一流の人が揃っていること、そして自由な環境というのがポイントではないかと。まさしく先端学際。先端と学際は相反するようですが、実は、尖っているから融合しても価値が出る気がします。
中村
たしかに、先端研のような仕組みや雰囲気の研究所は世界でも珍しいと思います。私は学生の立場で来たわけありませんが、ここで研究しているとすごく面白いです。

間口の広い独自の入試 共同研究のテーマで学位取得も可能に

中村
出願時に懸念事項はありましたか?
星山
出張の多い仕事で家庭もありますので、全てをうまくこなせるだろうかという不安がありました。
中村
社会人の方は仕事との両立を心配されますから、履修しやすいカリキュラムを考えています。
星山
ありがたかったのは、長期履修制度です。博士課程の履修は通常3年ですが、審査を通れば授業料は3年分のまま6年まで在学期間を延ばせます。私はビジネス畑だったため論文を書く研究にはほとんど縁がなく、時間がかかるだろうと思っていました。実は受験前にはこの制度を知らなくて、合格通知で長期履修を選べると知ったんです。長期履修に背中を押される感じはありました。
中村
入学手続きの時点でも選べるというのはいいですね。3年で申し込んで修了できなかったら、延長分の授業料を支払う必要がありますからね。
元橋
逆に6年みっちり在籍しないで切り上げることもできますよ。
私は社会人として入学して、2人の子どもの子育てもあり、最初の1年は時間の確保が難しかったです。その後、会社の理解に恵まれて1年間の長期休暇を取ることができました。ただ、会社での業務と研究との違いが大きくて、自分ではオーバーラップさせようと努力しましたが、苦労したというのが正直なところです。山下教授とセット准教授がとてもフレンドリーで、メンバー一人ひとりを丁寧に見てくださり、相談しやすくて助かりました。
中村
2018年秋には企業との共同研究のテーマで学位が取れる仕組みができました。修士修了の企業研究者には魅力だと思います。
コラム
2018年秋から企業との共同研究のテーマで学位取得が可能に
照月
僕が先端学際工学専攻を受験した理由の一つは"間口が広い"ことでした。東大の院試は基本的に専門分野のペーパーテストが必須で、例えば機械工学専攻博士課程の試験を受ける場合、数学や物理学、専門試験といった山盛りのペーパーテストがあります。僕は博士で研究分野を変えたので、そのまま試験を受けたら全く受からない状態でした。先端学際工学専攻がある先端研が素晴らしいのは、とにかくさまざまな研究分野があり、極端な話、医学部を受験しなくても世界で活躍する油谷教授(ゲノムサイエンス分野)の下で勉強できます。異分野の先生が近くにいて、直接に聞きに行ける。僕が修士までのギャップを埋める時間を短縮できたのは、この環境のおかげです。もちろん入試でペーパーテストがないからと言って博士が簡単に取れるわけではありません。東大の博士という最も高いハードルが要求され、スクリーニングも効いています。入ってから頑張らなければいけませんが、本当に研究したい学生や社会人の方に、もっと来てほしいと思っています。
西山
アイビーリーグのような海外の大学院への進学と比較すると、学費の安い国立大学の個人負担は1/10くらいで済みます。すでに日本にいれば海外赴任も不要です。
照月
先端学際工学専攻は工学系研究科に属するので、選考はありますがSEUT-RA*が適用されます。僕は3年間Aタイプで、月額12万円が支給されました。日本学生支援機構の奨学金と合わせると20数万円になり、何も心配なく研究に打ち込めました。

*工学系研究科博士課程学生特別リサーチ・アシスタントの略称。博士課程学生が安心して研究に取り組むための経済サポートを行う制度。Bタイプで毎月5万円、優秀な学生(Aタイプ)には毎月12万円が支給される。

座談会3
「多様な研究分野が集まる先端研カルチャーが先端学際工学専攻の魅力」と語る照月さん

渡航費・滞在費ゼロでケンブリッジ大学に留学

元橋
ケンブリッジ大学クレアホールへの夏季Visiting Students研修では、渡航費と4週間の滞在費を先端研が負担するという羨ましい制度があります。
中村
照月さんと西山さんは、クレアホールへ行かれたんですよね?
照月
はい、2016年に。ちょうど日立東大ラボと共同研究をしていて、クレアホールに滞在しながら日立ケンブリッジ研究所にも留学しました。訪問したい研究所には事前にメールで連絡を取り、ケンブリッジ大学工学部でロボティクスの先生と議論したり、MRC分子生物学研究所を訪問したりと、3日に1日はどこかを訪問していましたね。レベルの高い研究者と過ごしながらさまざまな議論ができて、自分の今後を考える刺激をたくさん受けました。
西山
私は、大学院サイトにある照月さんの滞在レポートに大いに感化されました。博士論文提出後に応募したため、現地で博士論文を研究成果としてプレゼンすることができました。残念なことに、訪問したかったケンブリッジ大学の教授が夏休みで不在だったため、クレアホールを拠点に積極的に他国に足を伸ばしました。LEGO本社があるデンマークも訪れ、同社のマネジメントにも研究成果をプレゼンしました。それが契機となり、オーフス大学やコペンハーゲンビジネススクール(CBS)へ訪問できました。1万円弱の飛行機代で、ヨーロッパ各所を日帰りで行き来できることは大変魅力的です。クレアホールをハブに自分の研究を売り込みに行った結果、CBSでのポスドクにつながりました。
照月
僕は、クレアホールに滞在した1カ月は貴族のような生活でした。昼と夜はクレアホールでシェフが作る食事をいただけて…。
私は、今年度クレアホールに行くことになりました。お二人の体験、参考になります。
クレアホール
英国・ケンブリッジ大学クレアホール©Tabias Baldauf
星山
わぁ、羨ましい。
照月
ケンブリッジやオックスフォードクラスになると、向こうも滞在者を厳しく選びます。そこに大学院生レベルで行けて、しかも滞在場所もあり、ほかの研究所も訪問できるなんて恵まれています。
アントレプレナーシップ関連の授業を受ける予定です。
中村
ケンブリッジ大学周辺にはスタートアップがたくさんありますよね。
元橋
英国におけるアントレプレナーシップでは10年以上注目されている場所です。
実は、休職期間が終わるときに会社を退職したんです。もともと起業願望がありましたが、先端学際工学専攻でロバート・ケネラー教授(現・東京大学名誉教授)のアントレプレナーシップの授業を受けて、修了後に現在の研究テーマを発展させて会社を興そうと考えています。今回の渡英がとても楽しみです。
クレアホール
元橋教授のケンブリッジ話に聞き入る参加者たち

恵まれた環境と博士の学位で、さまざまな扉が開く

中村
話は尽きませんが、先端学際工学専攻への進学を考えている方に伝えたいことがあれば、ぜひ。
星山
イノベーションを起こしたい社会人の方は、年代の壁も国籍の壁も超えて、チャレンジしてほしい。私は、それが何歳でもいいと思っています。しっかりと研究計画を立てて、初めから6年かけることを目指すのではなく、なるべく短期集中で。具体的に夢を描くといいと思います。
西山
「海外を視野に入れると博士の学位が必要」という張さんのような考えの方が今後増えるのではないかと思います。博士の学位でいろいろなドアが開くのは事実です。私も博士課程を経て、物事をより深く理解し、上手に説明できるようになりました。人材の流動化が進み多くの人が国をまたいで活躍するようになると、学際的な先端研の学位は、専門分野を超えて活躍できる舞台を増やすことに繋がります。とはいえ、研究成果を出すのは大変です。私は自分の専門分野の先生に恵まれ、本当に幸運でした。進学前に先生を訪問して、自分の目と耳で相性を確かめることは大切です。専門分野でなくても、自分のやりたいことを応援してくれそうな先生に会えたら、進学後に全力投球で挑めます。
オープンな雰囲気なので、研究以外のアウトリーチなど活動の幅を広げたい人には最適です。イノベーションを起こすというのは、修了後に起業することに限りません。会社に所属していても、自らプロポーザルを出して新しい事業を提案することが求められます。その力が養える場所だと思っています。
照月
いま大学には多くのことが求められていて、学生が早い時期にインターンに出るなど研究にかけられる時間が減少している気がします。そんな状況で3年間きっちりと研究ができる環境は、本当に素晴らしい。東大の中でも、先生にとっても、すでに少なくなっているかもしれないこの環境は、実はお金や設備に恵まれていること以上にすごいことなんです。本当に新しいことをやって行きたい学生には、ぜひ来てほしいと思います。
座談会5

構成:山田 東子(先端研 広報・情報室)/撮影:飯島 雄二

※この座談会は、2019年6月に行われたもので、参加者の肩書、学年は当時のものです。