東京大学

小坂研究室

小坂准教授

気候はなぜゆらぐのか、その真相に迫る

「グローバル気候力学分野」の小坂研究室では、全地球上の観測データと気候モデルを使い、気候のゆらぎの解明に取り組んでいる。その対象は、異常気象などのメカニズム解明から地球温暖化の将来予測までと幅広い。気候にゆらぎをもたらす要因は、人為起源の温暖化と自然変動である。自然変動は「テレコネクション」と「大気海洋相互作用」に大きな影響を受ける。研究室では全地球規模の膨大なデータを解析し、真相解明に挑んでいる。

目に見える気候の背後にあるもの

近年日本は何度も異常気象に見舞われています。こうした現象は日本単独で起こっているわけではなく、世界各地で複数の現象が連鎖的に発生しています。ある地点での変化が遠隔地にまで影響を及ぼすことから、こうした現象は「テレコネクション」と呼ばれています。
たとえば、2018年に西日本から東海地方にかけて起きた豪雨と高温には、「シルクロードパターン」や「PJパターン」と呼ばれるテレコネクションが関係していました。シルクロードパターンはヨーロッパに、PJパターンはフィリピン付近に端を発する現象であり、ヨーロッパも異常な高温に見舞われました。
複雑な現象を正確に理解するには、テレコネクションに加え、「大気海洋相互作用」などがもたらす複数の気象現象を、いったん個別の現象に分解する必要があります。その際に必要なのが観測データの統計解析です。個別の現象が理解できたら、今度は再統合が必要です。気候モデルを使って現象どうしの重なり合いや相互作用を再現し、過去の異常気象の理解や将来予測に活用していきます。
気候システムは、地球全体を例えば水平方向に100km間隔、鉛直方向に数十層に分割すれば、数百万次元の微分方程式に従って時間変化していきます。さらに高解像に分割すれば、さらに次元が増えていきます。気の遠くなるような巨大なシステムですが、統計解析とコンピューターシミュレーションによって、人間が理解できる程度の次元に縮約するのです。そのような理解は、温暖化の進行による地球の未来像を可能な限り正確に予測するために欠かすことはできません。

巨大なデータの中から物語を紡ぎ出す

私は中学生のときから『Newton』を読んだり、『NHKスペシャル』の自然科学シリーズを欠かさず見ていました。なのでそのころにはすでに理系に進むと決めていたのかもしれません。つい最近も、史上初のブラックホール撮影のライブ中継を夜中に見て、一人でテンションを上げていました。
もともとは理論物理志向でしたが、高校生のころに地球温暖化がクローズアップされ始め、それなら温暖化のメカニズムに物理学の視点からアプローチしようと地球科学を選択しました。
修士課程に進み、研究を本格的に始める段階で気候変動をテーマに定めました。やり始めて感じたのが、この研究は超巨大なデータの中から関連性のある物語を紡ぎ出すような作業だということ。膨大なデータを集めてモデルに放り込み、コンピュータの中で実験し、仮説を導き出して検証するのです。
新しいテーマに取り組む前は、まず自分の頭で考え、解析を始めるよう意識しています。その時点ではほかの論文はほとんど読みません。なぜならすでに誰かが考えた道筋に影響されたくないからです。ゼロの状態から考え始め、自分なりの方向性がある程度定まった段階で、初めて関連研究を見ていきます。ただ、最近は論文の増えるスピードが尋常でなく、すべてを追いかけるのが大変ですが。

とにかく、まず手を動かすこと

研究を始める前には関連分野についてしっかり勉強してから……、最近はそう考える慎重派が多いようです。私自身の反省も含めてアドバイスするなら、あれこれ考え過ぎずにとりあえず何かやってみた方が、結果がついてくることが多いように感じています。気になるテーマをみつけたら、ともかく解析を始めてみる。そうして動いているうちに次のステップが見えてきます。そんなやり方が成果につながるのでしょう。
私の研究室は海外とのつながりが多いため、海外の共同研究者がやってきたり、こちらから海外の学会に出向いて発表するなど海外で活動する機会がたくさんあります。そうしたチャンスを逃さず、積極的にチャレンジしてください。
これまで研究室に来た人は、温暖化だけでなくテレコネクションや異常気象にも関心を持っています。テーマが何であれ、研究を通じて世界と勝負できる武器を一つでいいから身につけて欲しい。今後必要なのが、気候分野の最先端の研究成果を社会に広く伝えるコミュニケーター役です。アメリカに多くいる気候科学専門のジャーナリストなども、有望なキャリアパスの一つと考えてください。

小坂研究室の様子
ページの先頭へ戻る