東京大学

西成研究室

西成教授

「渋滞」から見えてくる世界

渋滞の研究をやっていて分かったのは、「急がば回れ」ということわざは正しいということです。
自動車は車間距離を詰めるから渋滞する。
要するに、「われ先に」「俺が、俺が」などとやっていると、最後には自分も含めて全員が損をするんです。
例えば、地球上に2億年生きているアリは、前のアリとの距離を詰めないから渋滞しない。
ゆとりや間をとることが最適化につながり、不確定な環境で生きる力となる。
長期的視野で物事を見るということが、すごく大切なことだと思います。
人間社会にはさまざまな渋滞があります。
これからも、世の中にあるいろいろな渋滞をなくすような研究に取り組んでいきたいですね。

渋滞学とはどのような学問か

ゴールデンウィークの高速道路、工場の生産ライン、通勤ラッシュの駅……。渋滞は人、物、車が流れる場所のいたるところで起こる。西成活裕教授は、渋滞はなぜ発生するのかという謎を科学で解明するとともに、世の中から渋滞をなくすことを目指して「渋滞学」の研究に取り組んでいる。

西成教授は、「渋滞の原理は、前が詰まっていたら動かない。実はこれだけなんです」と説明する。この原理をもとに渋滞現象をモデル化し、40m以上の車間距離を取れば渋滞しにくいということを数学で証明した。さらに、実際に中央自動車道などで「渋滞取り」の実証実験も行った。研究チームの車が約40mの車間距離を取るようにして走行したところ、渋滞が軽減したのだ。西成教授は、テレビや新聞などのメディアを通して、研究成果を発信し続けることも自身の重要な役目だと感じている。「渋滞をなくすために、道路を拡張したり、新たな装置を作るのは最後の手段。私が目指すのは予算のかからない渋滞解消」と話す。

いろいろなことに興味があった子ども時代

幼いころから、「人とは違うオリジナルなことをしたい」という思いが強かったという西成教授。「他人の思考が自分の頭に入ってくるのが嫌だった。数学の問題が解けなくても解答を見たくなくて、1年間考え続けたこともあった」という。さまざまなことに気持ちが動いたが、その中でも一番興味があったのが宇宙。大学時代は天文学を学んでいた。しかし、「いろいろな現象に通じている原理原則を見つけ出したい」と、博士課程のときに数理物理学の世界に飛び込んだ。「成果を出せなかったら人生は終わり、という覚悟」を持ち、寝食を忘れて紙と鉛筆で計算する日々を送った。博士課程の3年間、自分を追い詰めて研究に取り組んだことは西成教授にとって大きな自信となり、それによって自分が取り組むべき研究を見出すことができた。それが、数理物理学を応用した新しい学問「渋滞学」だった。

不遇の時代を経て花開いた渋滞学

しかし、最初から渋滞学が世間に受け入れられたわけではなかった。3年経っても周囲から理解が得られず、西成教授は研究費を獲得できなかった。給料を取り崩して研究をする日々が続き、「こんなに新しいことをやっているのに、どこからも受け入れられないなんて、自分のやってきたことは何なのか」と落ち込んだこともあったという。そんなとき、尊敬する先輩から、「同じことを7年やりなさい。そこに行くまでに諦めてしまうと新しいことはできない」とアドバイスをもらい、続けることができたという。「本当に先端的なことは、すぐには受け入れられないもの。先端的なことをやっている人はみんな苦労しているけれど、認められない時期があった人の方が大きくなる」と西成教授は語る。

渋滞学は数学だけでなく、心理学、経済学などさまざまな学問を融合し、現在も進化をし続けている。何か問題を解決するためには、一つの分野だけを研究していても解けない。西成教授は、「研究室に来る学生にも、一つの専門を掘り下げるだけではなく、幅広い知識を兼ね備えた人になってほしい」と話す。そのためのノウハウを教えることは惜しまない。「負けず嫌いで楽観的な人ならきっと研究はうまくいく。そういう学生を歓迎します」と語った。

ページの先頭へ戻る