東京大学

大澤研究室

大澤准教授

未来のがん治療につながる独自の視点
新たな領域は、一つずつ積み上げた先に拓けてくる

「ニュートリオミクス・腫瘍学分野」の大澤毅研究室は、独特の視点でがん研究に取り組んでいる。それが、多階層の統合オミクス情報と栄養(ニュートリション)の視点を組み合わせた「ニュートリオミクス」だ。がん細胞は、栄養や酸素が欠乏すると悪性化する。そのメカニズムの解明と、新たながん治療法の開発が大きな研究の柱だ。

過酷な環境下で、なぜがん細胞は悪性化するのか

がん細胞は、低酸素・低栄養・低pHという過酷な環境で、増殖能や転移能、浸潤能が亢進して悪性化します。こうした悪性化の一部は、がん細胞の何らかの代謝産物によって引き起こされていると考えられます。私たちの研究室では、がん細胞の悪性化に寄与する代謝産物を同定し、その機能を解析しています。

また、栄養素の欠乏が、がん細胞の生存や悪性化に与える影響についても研究しています。糖質・脂質・アミノ酸の三大栄養素のうちどれかが不足しても、がん細胞は別のもので補って生き延びます。では、複数の栄養素が欠乏するとどうなるか。がん細胞の代謝産物や生存メカニズムを明らかにし、新たな治療法の開発を目指しています。

がん研究へと導かれた、2人の師との出会い

2人の偉大な研究者との出会いが、私をがん研究者へと導いてくれました。その一人が、英国留学中にお世話になったティム・ハント先生です。細胞周期における主要な制御因子を発見し、2001年にノーベル生理学・医学賞を受賞されています。英語環境で苦労していた私のプロジェクトに関する面倒を、とても親身に見てくださいました。もう一人は、がん細胞における血管生物学研究の第一人者である澁谷正史先生です。帰国して東京大学医科学研究所に着任した際に師事した研究者で、研究のイロハや研究者としての姿勢を教わりました。

私のがん研究は、なぜ抗がん剤が効かなくなるかを調べることから始まりました。抗がん剤への耐性を獲得したがん細胞も、悪性化することが知られています。そのメカニズムを調べるうちに、栄養や酸素が届かない環境でがん細胞が悪性化するとの仮説を立て、現在の研究につながっています。

先端とは、「一つずつ積み上げた先にあるもの」

生命科学はいまや生命と情報の融合科学です。なかでも、ウェットな実験とドライな情報解析は生命科学の両輪です。私たちの研究室は実験メインのウェットなラボですが、情報科学分野のドライなラボと密に連携しながら研究を進めています。企業との共同研究も多く、日々の研究を通じて自身の研究の幅を広げることができます。

いい研究をするために、環境整備にも力を入れています。実験メインのラボではありますが、実験データの解析やそこから生み出される発想やアイデアも重要です。居室でリラックスして思考できるよう、明るく開放感のあるカフェをイメージしてデザインしました。空間にゆとりを持たせ、大学研究室では珍しい音響システムも導入しています。

澁谷教授の下で研究を始めたころ、私の目標は一流ジャーナルに論文を掲載することでした。功を焦る私に、澁谷教授は、「小さくても自分のオリジナルな研究を一つずつ積み上げ、未開の領域を開拓することが大事だ」と諭してくださいました。野心や向上心は成長の糧になる一方で、一歩一歩進むことでしか、新たな領域を切り拓くことはできません。分子生物学や細胞生物学、がんの基礎的な研究に興味を持ち、コツコツと努力し続けられる人と、未来の治療につながる研究に取り組みたいと願っています。

大澤研究室の様子
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