東京大学

杉山研究室

杉山教授

期待の再生可能エネルギー「水素」
その太陽光発電による高効率生産

「エネルギーシステム」の杉山研究室では、半導体ナノ構造を応用した高効率太陽光発電と、化学的エネルギー貯蔵システム構築を目指した研究に取り組んでいる。太陽光エネルギーを、高照度地域にて高効率かつ低コストで水素に変換、日本に輸送して発電燃料に使う。このシステムが完成すれば、太陽光が文字通り社会の基幹エネルギーとなる。目指すのは、最先端の結晶積層技術を駆使した革新的な太陽電池の開発だ。

太陽光エネルギーをフル活用する

再生可能エネルギーとして、太陽光発電に期待が集まっています。ただシリコンパネルを使った既存の太陽電池では、太陽光エネルギーから電力への変換効率が20%程度にとどまります。この技術はほぼ完成されていて、これ以上の効率向上は望めません。
一方で、化合物半導体を使った太陽電池は、光のエネルギーに合わせて異なる半導体を利用し、幅広い波長の光を効率よく変換します。そのため変換効率は最高47%まで高めることができます。ただし高コストとなるため半導体素子を1円玉よりも小さくしてコストを抑えます。そのうえで、太陽を追いかけて動く集光レンズを使い、半導体素子に太陽光を凝縮して変換効率を高めます。

現在取り組んでいるのは、より発電効率を高める結晶構造の開発です。インジウム(In)やガリウム(Ga)、ヒ素(P)などを組み合わせて積層し、最も変換効率に優れた結晶構造を探求しています。

ラボでの研究と並行して、この発電システムを社会実装するため、オーストラリア・クイーンズランド州との提携も進めています。日照条件の良い場所で大規模発電を行い、その電力で水を電気分解して水素を日本に持ち込むのです。実際にシステムを稼働させるには、低コストの水電解装置の登場を待たなければなりませんが、完成すれば日本政府が2050年の目標としている、温暖化ガスの80%削減が現実味を帯びてきます。

小学生時代から身近な存在だった電力

幼い頃から電気に関心がありました。父親が変電所の技術者だったため、自宅には電力関連の設計図を下書きした紙がたくさんあり、その裏に落書きして遊んでいました。変電所の電圧が6600ボルトであることや電力系統の仕組みに詳しい小学生は、クラスでもかなり珍しい存在だったと思います。
エネルギーに関心はあったものの、一方では材料にも興味があり、結果的に学部時代は化学工学に進みました。ただ純粋な化学からは少し離れた研究室(小宮山宏教授)で、半導体製造装置の設計や半導体結晶や金属薄膜をつくる研究に没頭しました。その後、電子工学の世界に進み、化学と物理の境界領域での研究を経て、2008年ごろから高効率太陽電池の開発に取り組むようになりました。
私のスタンスは、あくまでも社会課題の現実的解決にあります。そのため、日本のエネルギー問題を解決するため、海外にまで視野を広げてベストなソリューションを追求しています。中学時代から得意だった英語を活用して、今ではクイーンズランド州政府との国際連携など少し畑違いの業務にも携わっています。

現実の問題解決につながる学際研究

研究室では、電気と化学の両方を理解できる研究者育成を目標としています。半導体研究を突き詰めていけば、原子の振る舞いを考えなければならず、自然と化学の領域に入らざるを得ません。
ミクロレベルの研究に打ち込む一方で、マクロな視点も養ってほしい。エネルギー問題の解決には、科学原理だけでなく量やコストの問題も同時に解消しなければなりません。システムを社会に実装するプロセスでは社会学的なストーリーが必要であり、海外で水素をつくって運ぶとなれば国際安全保障も考えておかなければなりません。幸いにも先端研にはさまざまな分野の専門家がいて、テーマを決めればかなり自由にプロジェクトを立ち上げて問題解決に取り組むことができます。

実験室は最高水準の環境で、最先端の装置が揃っています。そこで得られた成果を社会実装するための実験にも取り組みやすいのが、先端研の何よりの魅力です。
インターフェイスに興味がある人に来てほしい。研究と社会のインターフェイスでも、電気と化学のインターフェイスでも何でも構いません。化学、物理にとらわれることなく、幅広く興味を持って自発的に動ける人を求めます。

杉山研究室の様子
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